6月5日(水)にビッグニュースが飛び込んできた。EXILEらが所属するLDHが、タイを代表する大手音楽レーベル GMM Musicとの業務提携のもとに合弁会社G&LDHを設立したと発表。LDHは2021年からタイへの進出を図っていたとはいえ、大手同士の提携には驚きしかない…。
同社を軸に両国間での音楽的交流がより円滑になるのは間違いないだろう。発表と同日に行われた記者会見の内容を交えて、過去のLDHの動きや、勘違いのままにしておきたくないGMM Musicの構造についてまとめていく。
LDHは2年前からタイに進出
LDHがタイの企業と手を結んだのは今回が初めてのことではない。これも激震を走らせた出来事だったが、2022年5月11日(水)にヒップホップレーベルHIGH CLOUD ENTERTAINMENTとパートナーシップ締結したことを発表。同時にBALLISTIK BOYZ from EXILE TRIBEとPSYCHIC FEVER from EXILE TRIBEの2組が半年間タイで武者修行を積むことも明らかにされた。
ひとつひとつ紐解くと、HIGH CLOUD ENTERTAINMENTというのは、F.HEROが2020年に立ち上げたヒップホップレーベル。最近できたレーベルながら、F.HEROが率いているだけあって注目度もクオリティも高い。
ちなみにF.HEROはタイ屈指のラッパー。多くのアーティストにフィーチャリングされ「F.HEROとの楽曲であれば良い曲に間違いない」と確信させてくれるような存在でもある。タイのフィーメルラッパーMILLIと韓国のChangbin(Stray Kids)とのコラボ曲「Mirror Mirror」やTHE TOYSとの「นอนได้แล้ว (Sleep Now)」 など、YouTube再生回数1億回超えをザラに生み出してしまうヒットメーカーだ。最近では「PA PA YA!!」ぶりとなるBABYMETALとのコラボでタイのバンド・ボディスラムも参加した「LEAVE IT ALL BEHIND」が話題になっている。さらに敏腕プロデューサーとしての面も持つことから、BALLISTIK BOYZとPSYCHIC FEVERが彼の元に送り込まれることとなる。
翌2023年3月21日(火)には4NOLOGUEともパートナーシップを締結。4NOLOGUEは、東方神起、BIGBANG、GOT7などのイベントやコンサートのオーガナイザーとして注目を集め、都市型フェス『OCTOPOP』の主催でもある総合エンタメ企業。近年はTRINITY、DVI、bXdなどのマネジメントと、音楽制作の分野にも進出している。
この提携で、BALLISTIK BOYZとTRINITYのコラボ楽曲「Drop Dead」が誕生し、互いのアーティストのライブにゲストとして登場しあうように。2023年7月に開催された『BATTLE OF TOKYO ~CODE OF Jr.EXILE~』にはF.HERO、BOOM BOOM CASH、BEAR KNUCKLE、TRINITY、DVIがゲスト出演し、さいたまスーパーアリーナと京セラドーム大阪という万単位規模の開場を沸かせていた。
そして何より、日本に関心のあるタイ人が集まる「日本フェス」的なものでなく、タイでも話題の『OCTOPOP』に外国人枠として日本のアーティストが出演できるようになった。この功績はのちのち大きいものになるに違いない。
そして今回のGMM Musicとの業務提携。なんとなく「タイの勢いがすごいらしい」と気づいた人もでてきたのでは。これまでタイのエンタメを追いかけてきた身からすると、「すごいらしい」ではなく「すごいんです!なぜならGMMだから!」と言いたい気持ち半分、タイドラマファンが思っているGMMとは少し違うと正したい気持ち半分といったところだ。
タイ音楽シェア60%を誇るGMM Grammy
ひとえに「GMM」と言っても、GMMTVとは少し異なることを伝えておきたい。
1983年に立ち上げられてから、タイの音楽市場を支えてきたGMM Grammy。Bird Thongchaiを代表に大御所歌手の所属先を調べるとGMM Grammy出身で、その影響力の絶大さを思い知らされる。2023年に音楽事業をGMM Musicに移し、アーティストの発掘からリリース、マネジメント、コンサートやフェスのオーガナイズなどトータルビジネスを行っている。同社のタイでのシェアは60%を誇る。
同社が持つレーベルは全部で9つ。COCKTAILやThree Man Down、Tilly Birdsが所属するGENE LAB、PARADOXやPotatoら有するGENIE RECORDS、PERSESらダンスボーカルグループに強いG'NESTが日本でも知られるレーベルではないだろうか。その他FAMILY & BIRD BOX(Bird Thongchai)、GRAMMY GOLD(ICE SARUNYU WINAIPANIT)、SANAMLUANG MUSIC(APARTMENT KHUNPA)、THAIDOL(EyeChingChing)、WHITE FOX(ALALA)、WHITE MUSIC(PECK PALITCHOKE)と幅広い音楽ジャンルを網羅している。
ちなみに2021年にはBLACKPINKらが所属する韓国のYGエンターテインメントと合弁会社YGMMを設立、6月4日(火)には中国のテンセントと戦略的提携を結び、同社の企業評価額は7億米ドルにまで高騰したばかり。
一方ドラマや俳優ファンに馴染みのあるGMMTVは、GMM Gramy傘下でメディア機能を持つ合弁会社One Enterpriseの子会社のひとつ。ドラマ『2gether』やタイ版『花より男子』の『F4 Thailand/BOYS OVER FLOWERS』などを手がける同社は、2020年にテレビ朝日と業務提携を結んでいる。このことからGMMTVのテレビ番組や俳優はテレビ朝日、GMM Musicが制作する音楽はLDHから日本に輸入される仕組みが整ったことになる。もちろん逆も然りで、日泰間のエンタメ交流が加速度的に進んでいる。
合弁会社G&LDHが目指すのは「両国でのデビュー機会創出」
6月5日(水)にはタイで記者会見も行われた。まずGMM Musicの最高マーケティング責任者を務めるファーマイ・ダムロンチャイサムCMOは、両国の音楽市場について「黄金時代に突入している。日本は世界2位の市場規模を誇り、タイと比べると10倍。タイはこれまで日本とは比べものにならない規模だったが、今は世界中の様々なパートナーから「次の時代はタイのアーティストだ」と言われるくらいレベルアップしてきている。今回LDHと提携できることはタイのアーティストにとって素晴らしいチャンスだ」と明かす。
業務提携に対する期待は「機会の増加」「タイと日本、両方の市場を見据えた活動」「アーティストのクオリティ向上」の3つのポイントを提示。具体的な施策として「ダブルオーディション」、「ダブルトレーニング」、「ダブルプロダクション」、「ダブルマーケット」の4つを挙げ、互いのノウハウを共有しながらタイのアーティストが日本で、日本のアーティストがタイでデビューする可能性を示した。
続いてLDHからはHIRO CEO兼COOが登壇。「これから始まることにワクワクしている」と挨拶し、「日本の音楽はガラパゴスと言われることもあるが、すなわちオリジナリティがあるということ。コロナが収束し、日本に様々なエンターテインメントが集まり始めている今、そのオリジナリティを世界に発信する絶好のチャンス。タイを中心にアジア全域にLDHのアイデンティティでもあるダンスを軸にしたエンタメを広げたい思いがあったので、この場に立っていること自体がこの2年間の成果」と顔をほころばせた。
同社のアイデンティティについてはEXILEのNAOTOから説明された。「HIROさんや僕を含めて、ダンサー出身でキャリアをスタートさせたメンバーが多いので、ダンスパフォーマンスにはこだわりを持って活動してきた。HIP HOPやR&Bをベースに、J-Popやバラードなどの文化をミックスさせることによって、オリジナリティのある音楽やパフォーマンスを作ってきたという自信がある。タイの皆さんにも体感していただきたいし、影響を与えられたら」と力強く語った。
今後G&LDHでは、2024年第3四半期にオーディションの開催を予定しているという。また、GMM MusicとLDH JAPANの強みを融合させた新たな研修プログラムを開始し、両国混合のチームによる楽曲制作にも挑戦するそうだ。
会見の最後は、GMM Musicのレーベル・G'NESTからTIGGER、VIIS、PERSESS、LDHからBALLISTIK BOYZとPSYCHIC FEVERがそれぞれパフォーマンスを披露。4月に『T-POP Showcase Tokyo 2024』で日本の舞台を踏み、ダイナミックなパフォーマンスで魅せたPERSESSを筆頭に、まずはこの3組から日本との交流をしてくれるのだろうか。GMM Grammyにはクリエイターやプロデューサーとしても実力のあるアーティストが多数所属しているが、そのうちの誰かが両国近藤チームの楽曲制作に携わるのだろうか。無限大の可能性を持つG&LDHの今後の活動に期待が膨らむ。